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Friluftsliv JournalBe yourself with nature

テオドール・キッテルセンの世界

テオドール・キッテルセン(1857-1914)という、ノルウェー人画家のことを初めて知ったのは、かれこれ30年ほど前。当時私はデンマークに住んでいた。自然を描いた風景画や、民話、伝説の挿絵など数多くの作品を残し、特にノルウェーの伝承に登場する妖精トロールを描いた独特の作風は、それまで私が想像していたトロールのイメージとかけ離れていて、衝撃を受けた。

キッテルセンが描く山や森、湖、そしてそこに生きる動物たち。うっすらとベールがかかったような繊細なタッチには、不思議な光の温もりと自然への愛が溢れていて、息づく風景の中へ思わず引き込まれてしまう。キッテルセンの風景画のなかでも特に好きなのが、雪を描いた作品だ。木の枝から今にも落ちてきそうな雪、しんしんと降る雪、さらさらと風に舞う雪。どれも生命感に満ちた景色ばかり。雪をかぶったもみの木がトロールのようにみえてきて、もしかしたら、草花や石や山でさえも、実は姿を変えたトロールなのかも…と楽しい想像が膨らむ。キッテルセンが描いたトロールたちは、美しい風景画とは対照的に、一見不気味で怖い姿をしている。でも、自然界の精霊とされるトロールこそが、ノルウェーの壮大な自然をずっとずっと見守り続けているのだ、と想像してみると、その姿はまるで、何百歳にも年をとった哀愁たっぷりのお爺さんみたいで、なんともいえないおかしみすら感じさせる。

実際に何度か訪れたノルウェーの山は、キッテルセンが描いた神秘な自然の世界そのものだった。澄み渡る景色の中で過ごした時間と、すべての思い出は私の人生の宝物。今もときどき大好きな雪の絵画を眺めながら、遠いノルウェーの山に思いを馳せる。いつかひょっとしたら、トロールに出会えるかなと期待して…。

Yukiko(フランス在住/コーディネーター)
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