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Friluftsliv JournalBe yourself with nature

自然がつむぎ出す言葉たち

サイクリングに出かけて後悔したことは一度もない。むしろ行けなかったときの後悔は、これまで何度か経験している。文章を書く仕事をしている自分にとって、サイクリングは刺激と発想を生み出す原動力だ。サイクルウェアに着替え、ペダルを踏みこんで一気に走りだす。田舎道を、林道を、数時間かけて走る。走っている間に浮かんでくる言葉やフレーズ、アイデアは、家に戻ってから手帳に書き留める。

デンマークの南東部に位置する、ファルスター島(Falster)。私が生まれ育った島である。そして今日、平穏と暗闇と、新鮮な空気と、自然を求めて、コペンハーゲンから再び、バルト海を臨むこの島に戻ってきた。ここでは、コルセリッツェ(Corselitze)と呼ばれる荘園邸宅が、島の大半の畑と森を所有している。海まで続く森に、緑色の葉をつけたブナの木が、パラソルの代わりに白い海岸を覆うようにのびている。意外にも、コルセリッツェ領地や、東ファルスター周辺の自然に惚れ込んだ作家は、私だけではない。

デンマークの国民的な詩人、アンデルセンも、古代の氷河地形が残るこの地にインスピレーションを求め、1800年代後半、ファルスターやコルセリッツェ邸宅を頻繁に訪れていた。アンデルセンは、滞在中よく屋敷のキッチンに座って、領主の子供たちに物語を語り聞かせながら、切り絵を制作していたという。ストーリーを形で表現して、あの素晴らしい切り絵が生まれたのか、それとも切り絵から物語が展開していったのか…どちらがどうだったのか、私にはわからない。けれど、あるものによって別の何かが引き起こされる、ということだけはわかる。それはまさに、自転車に乗ってペダルを踏み、畑道や森を走り抜けるときに閃く、あの感覚なのだ。

ファルスター島の自然は、壮観というのとは違う。トーンダウンした、和やかで親しみのある自然。それこそがこの島の素晴らしさだと、私は思う。ちょろちょろと流れる小川、海岸、なだらかに広がる丘の風景、ブナやオークの木々、野うさぎや鹿やキジの姿。サイクリングを通して様々なシーンに遭遇するあいだ、思考と感情が体内を循環し、偉大なインスピレーションが湧きあがってくる。
家に戻ると、サイクルウェアを着たままデスクに向かい、手帳を開く。そこには、私が愛するこの島の自然のように、トーンダウンした、親しみやすい言葉とフレーズが並んでいる。
「夏のある日、ボト海岸(Bøtø)にねそべって、楽しみにしているのは、青空の下、白くて小さいカリフラワー雲が、ほらまた太陽をすり抜けていく」

(訳:via&plus)

Jesper(デンマーク在住/作家、ジャーナリスト)
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