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MAGICAL FURNITURE|小寺昌樹さん

good eighty%に携わっていただいている方々にフォーカスする「people」。

今回は、賃貸住宅でも簡単に取り付け・取り外しができるPuddle on asphaltシェルフを制作いただいている家具屋 マジカルファニチャー代表の「小寺昌樹」さんにインタビュー。
優しい印象のプロダクトを作られるようになったルーツや、壁掛けシェルフへの想いについてお伺いしました。

小寺昌樹さん
マジカルファニチャー代表(https://magical-f.jp/

_早速ですが、マジカルファニチャーを開業されてから現在に至るまでの歴史を教えてください。

小寺|私は前職を28歳で辞めて、そこから独立の準備をして28歳のうちに家具屋として開業しました。20代のうちに開業することを目標にしていたので、そこを目指して開業をした感じです。

_開業されてから9年(2023年インタビュー当時)、振り返ってみていかがですか?

小寺|9年前と今では成長したなぁと思うこともありますし、反面できなくなったこともあります。あとはモノの好みが変わってきましたね。木工家具作りを始めた時はデンマークの家具が好きで、ハンス・ウェグナーやボーエ・モーエンセンといったデザイナーの素朴な感じが好きでした。でもいま好きなのはアルヴァ・アアルトで、当時はそこまで興味がなかったんですよね。でも好きになったきっかけがありまして。
旅行でスペインのガウディ建築を見に行ったんです。ですが帰路でストップオーバー(*目的地へ向かう途中の乗り継ぎ地に24時間以上滞在すること)となり経由地がヘルシンキだったので、3日間フィンランドに滞在することにしました。「せっかくだから寄っていこうかな」ってぐらい軽い感じで。
そんなフィンランドの最終日、「アアルト邸」に行ったのがアアルトとの出会いです。邸宅まで向かう道中の周囲の環境や、家の中のしつらえがすごくしっくりきました。サイズ感とかディテールの優しさ、素朴さ、気取っていない感じとか。そこですごくハマったんですね。
それがきっかけで改めてフィンランドへ行き、2週間かけてアルヴァ・アアルトの建築巡りをしました。本を読んで知識としては持っていた“アアルトが意図していること”を体感して、理解が深まりました。

_アアルトにハマった理由は具体的にどのような部分なのでしょうか?

小寺|ウェグナーやモーエンセンは家具に特化したプロダクトが中心で比較的スケールが小さいのですが、アアルトは建築なので空間に身を置ける。それが楽しいんですよね。触れ方・感じ方がプロダクト(家具)とは違うというか。そこからデザインの考え方も変わっていきました。“建築と家具の関係”を強く意識するようになりましたね。

_そういった経験が、小寺さんの作るプロダクトに活きているのですね。

小寺|考え方は大きく影響していると思いますね。かっこいいモノ、美しいモノを作ろうとは思わなくなりました。それよりも愛嬌や入り込むスキがあるものを作りたいって考えるようになりました。

_なるほど!それを聞くと小寺さんが作り出すプロダクトが持つ独特な佇まいの理由がわかる気がします。少しイジワルな質問ですが、量産品は図面ありきで制作されるかと思います。愛嬌や入り込むスキとはどのような部分に表れるのでしょうか?

小寺|主には細かなディテールかなと思いますね。家具だったら面取り(*素材の角を削ること)の度合いや、金具のセレクトなど。板の小口(*側面)の角を45度で面取りするとスッキリとした印象になるところを、あえてサンドペーパーで軽くならしたり、エッジの面だけを削ったりすることで印象が変わって、僕の言う愛嬌のようなものが出るかなと思います。あとは直接お客様と接する事で生まれてくる表現もあります。新しい視点や加工への挑戦は、そういったことがきっかけになることも多いです。

_ありがとうございます。では、壁付けシェルフを多く作られていますが、そこには何か理由があるのでしょうか?

小寺|昔読んだ本の一節で印象に残っているものがあって。イタリア人は空白恐怖症で廊下に額を何個も掛ける文化があるらしいんですよ。日本人はあんまりそういうことをしないし、物や絵を掛けたりする事に対して構える傾向があると思っていたんです。僕自身は幼少期から作ったプラモデルを飾ったりするのが好きでした。歳を重ねて飾る対象は変わっていきましたが、自分の空間を作る上で「好きなものを飾ることが好き」ということは変わらずにありました。
それからマジカルファニチャーを創業してしばらく経ったときに、東京の展示会を見に行ったんです。当時“用途の無いオブジェ”みたいなものが増えていて、それを見たときに”これを皆さんどこに飾るのかな?”と疑問が浮かびました。「ものを飾る」ことと「オブジェが売られている」ということ、そして自分の工場にあった木工の「部材」。賃貸住宅に多い石膏ボードの壁に、ピン1本でもある程度の重量を支えられることもわかっていたので、そういった小さな要素が重なりあったことが壁付けシェルフを作り始めたきっかけですね。

_なるほど。その後は、製品を展示会などで発表されたのですか?

小寺|おっしゃる通り展示会に出しました。他と被っていない、見たことのないモノを作れたという自信はありましたが、面白がってくれる人がどれだけいるかは未知数でした。出展は3日間だったのですが、正直に言うと滑ったなという感触でした(笑)。やはり賃貸の壁とか石膏ボードの壁とか、そういう空間に対して棚を付けるのは無理という諦めみたいな考えが出来上がっていて。でもそのイベントの後から、沢山の良いご縁もあって少しずつ壁掛けに対する理解も広がっていき今に繋がっていますね。

_good eighty%の為に制作いただいている「Puddle on asphalt」シェルフの開発経緯も改めて聞きたいです。

小寺|この話をいただいたときに、求められていたのが「賃貸住宅でも気軽に壁を飾れる、軽快なシェルフ」と明確でした。それに応えられるものにしたいと思い要項を絞っていき、アイデアと手法の重なったところがカタチの原点になっています。
初期のデザイン案では縦の板を四角で提案させてもらったのですが、good eighty%のメンバーからは「もう少しソフトな印象にしたい」というフィードバックをいただいて。四角をラウンド形状に変化させてほぼ現在の最終形になりました。

_では「パドルオンアスファルト(アスファルトの水たまり)」という少し変わった製品名は、どのように思い付かれたのでしょうか?

小寺|製品名、長くてすみません(笑)。「家具って主役ではない」という考えがありまして。あくまで生活している人が主役であって、家具の中でも特に飾り棚はある種存在が消えるくらいがベストなのかなとか。でも確かにそこにあるという存在感も残していて。
そんなことをいろいろ考えていた開発当時、週に1回くらい銭湯通いをしていたんですよ。ある時、雨が上がったし銭湯に行こうと家を出たら道路に水たまりができているのを発見して、「あ、ここ凹んでたんだな」って。雨が降って水たまりができたことで、その場所が凹んでいることに気付いた。その言葉の感じと体験がマッチしてできた名前ですね。

_いやー、改めていい名前ですよね(笑)。今日も雨が降っていますけど、水たまりを見るたびにPuddle on asphaltが思い浮かびます。突然ですが、小寺さんはこのシェルフに何を飾りますか?

小寺|お家のシーンにもよりますが、ダイニングテーブル付近だったらサッと手が届くところに設置してコップを置きたいですね。僕コップ好きなんですよ(笑)。ビールを飲むときにプシュッと開けてから、どれにしよっかなーって選ぶ時間を楽しみたいですね。僕の持っているコップだと4個か5個くらいは置けるのかな。飾りながらも実用的に使いたいです。

_今回のインタビューを通して、読者の方にメッセージがあればいただきたいです。

小寺|幼少期の記憶を辿ってほしいなと思います。プラモデルを組み立てたり、シルバニアファミリーで遊んだり。「自分の好きな場所に、自分の好きなものを置いて嬉しい」っていう、その純粋な気持ちを大切にしていただけると嬉しいです。大人になるとスタイリングとかSNSを見て参考にしますよね。それももちろん楽しいし良いと思うのですが、それよりは自分の記憶と好みに素直になって「自分の好きなものを飾る場所」を作ることを楽しんでほしいです。

__素敵なメッセージをありがとうございました。このアイテムを開発するうえで、賃貸住宅の壁を飾ることに対する“諦め”みたいなものを少しでも解消できたら、暮らしを豊かにできるのかなという想いで私たちも取り組んできました。これからも、今の暮らしをポジティブに捉えることやプロダクトの力で日々が楽しくなるような提案をしていきたいと思います。



Text:Muneo Watanabe

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