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M&Tさん

good eighty%に携わっていただいている方々にフォーカスする「people」。
第1回は「Per」シリーズのデザインを手掛けた、池田美祐さんと倉島拓人さんの二人からなるデザインユニット「M&T」にインタビューしました。
普段お二人がデザインの仕事をする時に意識しているアプローチの仕方や、大切にされている事などをお話しいただきました。

池田美祐(写真:左)と倉島拓人(写真:右)によるデザインユニット「M&T」。家具や生活用品といったプロダクトデザインの他、インスタレーションなど幅広く活動を行っている。
http://mandt.design

__早速ですが、これまでに家具や生活用品などのプロダクトデザインを手掛けてらっしゃいますが、過程において常に心掛けていることなどはありますか?

池田 | デザインしたものを使ってくれる人にとって、「新しい体験を生み出せるように」と常に考えながらデザインしていますね。また「美しさも機能の一つ」とも考えています。

倉島 | 池田と同じ部分も有りますが、やっぱり「新しさ」みたいな部分は、常に意識しています。デザイン自体が新しいとかそういう見た目の部分ももちろんありますけど、今回だったらアクタスさんと取り組む中で「この活動のどこが新しいか、それを表現するには何が最善解か」って、そういうことを自問しながら取り組んでいます。



__お二人は共通して「新しさ」を意識しながら活動・デザインをなさっているんですね。では少し話にも出していただいたgood eighty%(以下g80p)について、どのような印象を持っていましたか?

倉島 | g80pが届けたいメッセージやプロダクトって僕たちと同世代に向けているというのもあって、コンセプトもすごく共感できるし、プロダクトも本当に欲しいものばかりですね。ブランド自体の息遣いが聞こえてくるみたいな、説明が難しいですが、「ひとつひとつがすごくリアルだな」っていう感じがしています。

池田 | 1年ぐらい前にデザインのお話しをいただいたのですが、当時はまだ「good eighty%」というブランドネームはなくて、でも「so far, so good.(今のところいい感じ)」っていうコンセプトだけがありました。僕はこれを聞いたときに、良いブランドになりそうだなって思いました。実際ローンチ前の時点でインスタグラムのフォロワー数も伸びていましたし、同世代の人達にも共感を既に得ているなとその時に感じましたね。この取り組みが、リアルに地に足をつけながら一歩ずつ進んでいければいいのかなと思います。

Photo:Shinsui Ohara

__デザインいただいた「Per」シリーズは、絶妙なサイズとデザインによって使い手に使い方を委ねているかと思います。M&Tさんだったら、どのようにして使いますか?

倉島 | どう使うかっていう質問の答えにはならないですが、テーブルが我ながらすごく気に入っていて。60×60cmの正方形なんですけど、すぐにでも生活に取り入れやすい大きさだなって改めて思います。無理なく生活の中に取り入れやすいって大切だと思うんです。でもどうせなら、カフェテーブルみたいに2つ並べたり、たまに離したりして使いたいかな。

池田 | 横長のスリムテーブルって、独特でなかなか他にないサイズとプロポーション(バランス)だと思っています。シリーズとして使ってもらいやすいように、チェアの背もたれが天板の下にちゃんと納まるようにもしています。家で作業するときに、Perチェアとスリムテーブルを使ってみたいなと思います。あ、二人とも図らずもテーブルですね。

Photo:Shinsui Ohara

__では少し話を変えて、M&Tのデザインワークとして、2021年秋に発表された実験的なプロダクト「L.F.M.(LEATHER FIBER MOLDINGの略)」について教えてください。

池田 | たまたま見た墨田区の歴史を紹介するネット記事に、隅田川沿いの革工場に革の端材が山になっているのを見つけまして、なんとなしにその端材の行方に興味が出ました。調べてみると山になっていたのは床革という部分で、製造工程では廃棄されてしまうということがわかったんです。

倉島 | 「床革」について調べていくと、革をすいた後にでる革の裏側の部分だっていうことで、「あれが全部ゴミなの?」っていう驚きと「このまま廃棄し続けていいのか?」みたいな問題意識がそこで生まれました。

池田 | そこで革工場の方にアポイントをして会いに行ったんですけど、工場の方々が誰も嫌な顔せずに興味を持ってくださり、革端材を頂けました。工場の方々も「もったいない」という意識は持っていて、でも解決策までは持ち合わせていないので、「面白そうだな」みたいな感じで、接していただけて。面白いものができたら写真を送ってほしいって言ってくださったのが印象に残っています。

倉島 | 何回行っても皆さん色々革の扱いについて、やったことのない床革の再利用のアドバイスを「それもいけるかもね!」みたいな感じで接してくれたりしました。

池田 | 僕たちは床革を革製品として単純に蘇らせるのではなくて、何か新しく見えるようなものにできないかと、普通の革とは違ったアプローチのモノづくりができたら良いのかなっていう漠然とした考えがあって。この段階ではとにかくいろんなスタディをしながら素材の深堀りをしていました。

倉島 | どこに新しい価値を生み出すか、より良く見せるにはどうすればいいか、ということを考えながら、本当に手当たり次第いろいろ試しましたね。乾燥させて細かく粉にしたり、粉にしたはいいけどどうやって塊にするかとか、シート状にしたりもしましたね。混ぜるものや、水の分量などを実験的に組み合わせて、ある程度形が見えてくるまで約1か月間は素材実験を行いました。油分を取る為に試しに洗濯機で洗ってみたんですが、洗濯機が粉まみれになった時は焦りましたね。(笑)

2021年に行ったエキシビジョン(会場:TOKYO MIDTOWN Galleria)

__形になるまでにそういった実験的な試行錯誤があったんですね。では実際に今のL.F.M.のデザインはどうやって決まったんですか?

池田 | 革製品にできるだけ見えないようにということは意識しました。製造要件の兼ね合いで、どこまでエッジが立つかや、幾何学的な形状が出来るか、3Dの中から飛び出したように見えるかなどを探っていきました。いくつか形状の種類があるのですが、実はどれも機能がある形になっていて、でもそれが装飾的にならないように気を付けてデザインしています。

倉島 | いろいろ試す過程でカタチは機能を持たなければいけない、みたいな部分に立ち返ったよね。あと私はこれを量産したいという想いもあって、数は10個とかでもいいんですけど、3Dプリンター上でデザインすることで「同じ形を量産できる」ということをテーマにしていました。

池田 | あと端材を利用していることで、ある種「エコ」がテーマのプロダクトにもなっているので、そういった側面で厳しい意見もあるかと思っていましたが、床革という革の存在を初めて知ってとても驚いたという声を多くいただきました。

倉島 | L.F.M.を発表したときに「この質感の○○が欲しい」みたいな屈託のない(ある意味好き勝手な)意見や発想を言っていただけたのは、次の製作のヒントにもなりますし嬉しかったです。

Photo:Ayaka Endo

__では、少し話が変わりますが、お二人は「サスティナブル」というワードをどう捉えられていますか?

池田 | サスティナブルって、ここ数年で誰もが聞き馴染みのあるワードになりましたよね。モノづくりをする側の立場としては、もはや意識して当たり前というか、そこは大前提に考えていかないといけないなと感じています。
例えばデザインする対象がモノであれば、長く使われることを踏まえてデザインの耐久度が高いものをつくらなければいけないことも非常に大切で。倉島とは会話をしながらデザインしたものを少し寝かせ、間違いないかを判断しながら1つ1つのデザインの耐久度を上げるプロセスをとっています。
そういったプロセスを踏みながら、「Per」は少しのアクセントを加えながらもスタンダードなデザインになっていきました。スタンダードな分だけ、素材と技術の融合がとても重要になると思っていたので、そういった面でも平田椅子製作所さんの技術力やデザインとの相性は良かったんじゃないかなと思います。

倉島 | そうだよね。とてもいい経験をさせてもらったなと思ってます。あとサスティナブルに関して僕が思うのは、例えばですけど、商品を届けるのに使う発送・梱包資材の素材や必要とする量を決める打ち合わせがあったとして、その時の一言で、これから継続して使っていく資材の量が劇的に変わる可能性がある、という部分の責任を一層強く感じるようになってきましたね。できる限りサスティナブルでありたいと思いますし、もっと言えば消費者の方が選べる選択肢が多い状況にしていきたいなと思っています。


__お二人の意見に、すごく共感できます。モノを販売する立場として、作って販売して終わりではいけない時代になっていて、その先のことだったり届け方にも工夫の余地はまだまだあるなと感じています。
では最後に、デザインユニット「M&T」として、お二人で取り組む意味や今後の目標みたいなものはありますか?

池田 | 二人でデザインのアイデアをキャッチボールしながら進めたり、3Dデータを触りながらっていうスタイルを今はとっていて、二人の人格や感性というよりも、第三の「M&Tとしての人格」が生まれてくる部分があって、そういった時に二人でやっていて面白いなと感じますね。二人でデザインしたものが世の中に出ていったときに、M&Tのデザインとして評価をいただいているので、結果的にこのやり方が凄くハマったというか。結果論ですが、いいアウトプットができているので、それぞれ別で活動をするよりは、二人でというのが今はしっくりきています。二人でしか生まれない「アイデアのカタチ」みたいなものがあるっていうことだと思います。

倉島 | よかった、夫婦円満です。(笑) 個人で活動しないんですか?と言われることもあったりしますが、僕たち意外と仲良くやっています。

池田 | 今後やりたいことでいうと、これまで2年連続で照明の展示を行っていて、それらを上手いことプロダクトアウトした照明を作りたいと思っています。

倉島 | 僕は結構何でもデザインしたいですね。これまで家電やショップ什器などもデザインしてきたので、ほんと何でもやってみたい。L.F.M.みたいな素材開発も含めて、その時々で興味が向いたことについて取り組んでいきたいと思います。

池田 | それでいうと、地域に根差した産業との取り組みとかは興味があります。あとは実験的なプロジェクトから展開を広げていくというのもやっていきたいですね。いろんな人の手に届くように量産製品や再現性といった部分も含めて、あくまで「プロダクトデザイン」をベースにこれからも活動していきたいです。


Text:Muneo Watanabe

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