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Perがうまれるまで

diaryではプロダクト開発や企画の裏側を、関わっていただいている様々な分野の方にインタビューすることで、より本質に触れていただけるのではないか?との思いからdiaryという形で記事にすることにしました。
diary1回目はタイムレスで、フレキシブル。プロダクトに余白を感じる「Perがうまれるまで。」にフォーカスします。
Perシリーズを生産する佐賀県に位置する平田椅子製作所(以下、平田椅子)へ訪問し、開発主任である古川さんと、Perシリーズのデザインを手掛けたM&Tの池田さん、倉島さんにお話を伺いました。

ACTUSとgood eighty%で 家具開発を担うインタビュアーの渡辺(写真:左)と平田椅子製作所の開発を担当する古川さん(写真:右)
倉島さん(写真:左)と池田さん(写真:右)によるデザインユニット「M&T」。
http://mandt.design

_プロダクト開発のご相談をしたのが、2021年1月なので約1年2ヶ月前です(インタビュー時)。good eighty%(以下、g80p)のプロダクトの中でもいち早く商品企画が始まったシリーズで、デザインの相談をM&Tさんに、モノづくりの相談を平田椅子製作所さんにお願いさせていただきました。当時はまだg80pというブランドネームすら決まっていなかったですが、形にしていく上で心掛けていたことは覚えてらっしゃいますか?

池田 | そうですね、まずg80pの最初のオリジナル家具シリーズということで、とても大事なプロダクトになるなと思いました。ファーストプロダクトとして、ブランドのコンセプトをしっかり体現していて、手に取ってもらえるようにする必要があるし、ブランドのアイコンになるようなデザインを目指していましたね。

古川 | M&Tさんからデザインのご提案があった時の最初の印象は、デザインの要素がすっきりしていて、ある意味ごまかしがきかない。ほんとにきっちりやりきるしかないデザインだと思ったのを覚えています。また当時から「宅急便で配送できる梱包形態にしたい」と聞いていました。実は平田椅子では、お客様が家で組み立てて完成する家具は製造したことがなく初めての試みでした。出荷時に製品が完結しない分、組み立てることを意識した設計図について考える時間が多かったですかね。梱包時に製品が遊ばない(動かない)ようにラップのアイデアを採用したのですが、本当にガッチリ止まるんだと知って驚きました。そういう意味でも自分たちのアイデアになかったものに挑戦するつもりで開発にあたりました。


_ブランドのファーストプロダクトという気持ちの面でのハードルもありながら、デザイン的にも、モノづくり的にも挑戦的な意気込みで臨んでいただけた事はとても嬉しいです。デザイン面で追及された部分などがあればお伺いしたいです。

倉島 | ACTUSさんが販売元ということもあって、著名デザイナーの椅子もたくさん扱われている中で、どういった印象のものを作るか、そこは池田とかなり話を重ねました。最初の段階で40~50程のアイデアスケッチをg80pメンバーの皆さんに提案させていただきました。その場で、どんな印象や方向性のプロダクトにするかキーワードを集めていきました。そこで浮かび上がったのが「クラシックであり、コンテンポラリーである」、「懐かしさも有りつつ新しさもある」というそれぞれ一見すると相反する感じのワードですが、その二つを両立できるデザインを見つけよう。ということでわりと感覚的な部分でメンバーの方々と共感ができました。その後とにかく色々な形を試していき、複雑な形状は3Dプリンターも使いながら、試作と検証を繰り返しました。そうすることで段々と目標とするプロダクトのぼんやりとした形がつくられていきました。

_ちなみに「特にここは大変だった」という部分はありますか?

倉島 | 具体的なディテールだと、チェアの背もたれの形は本当に何度も検証して、すごい数を試しましたね。コンパクトでありながらノックダウン(部品の状態で出荷し、荷受け先で組み立てる)構造でお客様が組み立てるという部分が本当に本当に大変でしたね(笑)。最終的には、背中への当たりも踏まえて、この辺かなっていういいところに落ち着けて良かったです。

__お客様が組み立てて完成させる家具ということで、一つ一つのパーツを精度高く完成させることは、「デザイン」と「モノづくり」の相性が良くないと結実できなかったように思います。平田椅子さんが感じるPerシリーズの魅力はどんな部分にあると思いますか?

古川 | わかりやすくある程度世代のターゲットを絞っていて、それがこのデザインに繋がっていると思います。その狙いどころに、デザインがぴったりきているのかなぁと思います。どこかかわいらしい雰囲気もありながら、でも普遍的なデザインも兼ね備えているところが個人的には魅力だと感じるポイントですかね。ちなみに採用しているホワイトアッシュという材は、北米産のものを使っていますが、日本だとタモ材という昔からある素材に近い木目なので、馴染みもあり受け入れやすいと思います。あと強度も高くて扱いやすいです。コンパクトだけど、ちゃんと上質な素材を用いているプロダクトって意外と世の中に少ないんじゃないでしょうかね。

__それではデザインのプロセスの中で、印象的だったことはありますか?

池田 | デザイン提案をさせていただく際に、数あるデザインの中の振り幅としては、「Per」の原型は尖った提案でした。実現性の難易度が高いと思っていたので、僕たちとしては変化球のつもりで提案させていただいたんですね。でもg80pのみなさんはこのアイデアを選ばれて、その時にある種の覚悟を感じましたね(笑)。

_(笑)。確かにスツールやチェアを3本脚で、さらにノックダウン構造を実現させるというのはハードルが高そうだと思いました。ただメンバーで会話をした際に、全員の意見がこのデザインへの新鮮さとブランドを体現するということへのポジティブな意見が多かったを覚えています。

池田 | 構造の面でも、古川さんが仰るようにノックダウン構造の家具っていうのは、国内生産でも増えてきてはいますが、無垢材を用いて高温多湿の日本の住宅環境でこのデザインを作っていただけたことは、僕らとしても良い意味でとても驚いたので印象的でした。それと、今回ベンチを2種商品化していて、一般的には狭い家にはベンチってあまり置いていないかなと思うんですが、狭小住宅の場合は逆にベンチは汎用性が有って、g80pにハマっているんじゃないかという話になりました。とはいえ、最終的にはどちらかのデザインに絞っていくかなと思っていたのですが、2種とも商品したことは、ブランドとしてのメッセージが表れているのかなと思います。選択肢をお客様の為に増やしていることが素敵です。

倉島 | そもそもこのg80pチームは僕たちも同世代の20~30代前半のスタッフさんで構成されていて、とても前向きな風が吹いていました。けっこう細かい部分まで提案させていただいたのですが、それに対して「良い/悪い」ということも一緒になって話をさせて頂いて、少しづつ丁寧に形にできたプロセスが建設的でとても印象に残っています。もちろん、それを製品として実現いただいた平田椅子さんのモノづくりは、凄く大変だったと思います。デザインを実現する為の機構や、木目が透けて見える塗装の微妙な色調整なども含めて、本当に感謝しています。

_塗装仕上げに関しては、何度も綿密に打合せを重ね、思い描く色の表現や質感の部分まで多くの工程を重ねましたね。

古川 | 今回はかなり詰められたと思います。長く販売していくということを踏まえ、途中で変更するのは良くないと思ったし、集中してやりました。ナチュラルオイル仕上げは、ホワイトアッシュ材の本来持っている白木の印象を残す為の天然オイル仕上げにしています。それからグレー塗装の場合、木材の赤みを表面に出さないのが難しいんです。当然1つ1つ木目のばらつきもありますし、木目が活きてくる薄塗りの調整に苦労しました。

池田 | その苦労を僕たちもキャッチしながら、グレーはなるべくブルーに寄らないニュートラルなグレーにしたいという希望もありました。最大限純粋でフラットなグレーにすることにこだわっています。またブルー塗装は唯一の有彩色で、ナチュラルとグレーとの相性も良いですし、生活の中に入った時にしっかりブルーなんだけど、あまりに主張が強すぎると悪目立ちしてしまうので、その加減に気を付けながら色を決めていきましたね。

倉島 | あまり派手過ぎず、「手に取れる良いブルー」を目指していました。ロジカルに言うと池田の言っている通りなのですが、結構感覚的な部分も多いですね。

―ブルー塗装に関しては、私も途中で正直難しいんじゃないかな、、、と思った瞬間もありました。でもM&Tさんからの根気強い要望で、古川さんがなんとか応えるかたちで両者の目線を合わせて、何度もコミュニケーションしていただいたのが印象に残ってます。透明感があって見る角度で見え方が変化するようなこのブルーは綺麗ですよね。実現して本当に良かったことの1つです。

池田 | グレーを作り上げる過程をみて、これだったらブルーについてももう一回なんとか古川さんだったら要望に応えてくれるんじゃないかと。大変だったと思いますが甘えさせて頂きました。Perシリーズの中でもブルー塗装の存在は印象としてとても利いていると思います。製品の垂直面と水平面の光の当たり方の違いで異なった表情があるし、奥行きがある色になっていると思います。大変な工程を繰り返し重ねていただきありがとうございました。


_ちなみにですが、今後追加してみたい色とかありますか?

倉島 | 追加するならモスグリーンですかね。全体として、グリーンの落ち着いた印象もとても似合うと思います。機会があれば、ぜひ追加を検討していただきたい色です。

_あと平田椅子さんに来ていつも思うのですが、働かれている方はみなさん凄く活き活きされている印象があります。何か心がけてらっしゃるのでしょうか?

古川 | 当然さまざまなプレッシャーはありますが、頑張ってます(笑)。木工所の中では、働いている社員の年齢も比較的若い会社だと思います。なるべく笑顔で話せる環境であろうとは思っていますし、仲も良いと思います。コミュニケーションが本当に大事で、結局人と人で作っているので。モノづくりにもそういった部分って出ると思います。苦手な人に次の工程を任せるのと、仲が良い人に次の工程を任せるのとでは、いくら職人といっても「人」だと思うので、そういう意味でもコミュニケーションが大事だと思います。気持ちよく次の工程にバトンを渡していくことが良い製品にしていく為に本当に大切だと思います。

_これだけ苦慮いただいたプロダクトです。長くお客様に愛されるプロダクトとして販売していきたいと思います。

古川 | 実は初回生産がもう少し後なので、僕としてはまだ完結していなくて。しっかりと初回生産分を送り出した後に、ちょっと落ち着けたらと思います!そういう意味ではまだ平田椅子としての道のりは、「good eighty%」ですね(笑)。

Text:Muneo Watanabe

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